「トリック・オア・トリート!」  

 聞き馴染みのない掛け声に目を覚ました日番谷が最初に見たものは、ぱくぱくと口を開閉するかぼちゃのぬいぐるみだった。ピペットマペットとかいうやつだ。
 その向こうの操り手の、なんとも愉快そうな顔を見、日番谷は眉間の力をそっと抜いた。

「…何やってんだ、朽木」

「はろううぃん、とやらの真似事です」
 かぼちゃを操りながら、ルキアが答える。かぼちゃが言っているようにしたいらしい。
「…かぼちゃに目と口をつけて遊ぶ遊びか?」
「いえ。子供たちが仮装をして、"お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ"と街を練り歩く祭りです」
「ああ、現世の」
 話をしているうちに目が覚めてきた。
 半端な睡眠で気だるい身体を起こし、伸びをひとつ。その間に、ルキアが隣に腰を下ろした。手にはかぼちゃを持ったままだ。どうやら気に入ったらしい。
「どうしたんだ、それ」
「恋次がくれたのです。現世みやげに、と」
「…へぇ」
 無愛想な返事になってしまうのは仕方がない。けれどルキアはそれに気付かないようで、果たしていいのか悪いのか。
 そんなことを考えるうちに。
 ふと、日番谷の胸の内でいたずら心が頭をもたげた。
「…トリック・オア・トリート、っつったっけ?」
「はい」
「お菓子をやらないといたずらされるってわけだ」
「そうです」
「じゃあ、」

 お菓子をやらなかったらどんな悪戯されるんだ?

 そう訊くと、きょとんとした目を返された。
 逃げられてしまわないようにと、日番谷はその裾を捕まえる。
「日番谷殿?」
「してみろよ、いたずら」
 できないと分かっていて、日番谷はそうけしかける。
 案の定、ルキアはひどく困った顔になり。
「いえ、あの…お菓子が欲しかったわけでは…」
「できねぇなら放さねぇぞ」
「日番谷殿…」
 いたずらされることを自分で望むなど、おかしなことをしていると自分でも思う。
 けれど悪気がないとはいえ、しょっちゅうしょっちゅう些細な嫉妬を感じさせられているのだから。
 このくらいの意趣返しは妥当だと、彼は思うのだ。

―――了



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本当は。Web拍手使って
「皆さんならどんな悪戯します?^^」
ってしたかったのですが;

日番谷たいちょの行動理由はいつでも嫉妬。
大人気ないけど、そう思わせないのが彼のすごいところ。