花に欲情、した。


  花影  


 まだ早く、人気のない昼休みのことだ。
 たまたま偶然、日番谷はルキアとすれ違った。
 すれ違ったといっても、日番谷は回廊を、ルキアはその外を歩いていただけなのだけど。
 それでも日番谷が足を止めてしまったのは、相手が大量の花を両手にかき抱いていたからだ。白く小さな、地味な花ではあったが、ここまでくるとさすがに壮観だった。
 自分が回廊にいるがために頭ふたつ分下にいるルキアに向かい、日番谷は声をかけた。
「よぉ。すげぇな、それ」
「あ、日番谷隊長殿」
「どうしたんだ? それ」
「卯ノ花隊長殿に分けて戴いたのです」
 花茶です、と、花に埋もれながらルキアは笑んだ。
 どくり、日番谷の胸の奥がざわめく。けれど彼は、それをおくびにも出さない。
「ああ、確か熱に効くんだってな」
「はい。浮竹隊長に差し上げようかと」
 途端、日番谷の眉間に、しわが一本刻まれた。
 分かっている。浮竹はルキアの上司で、ルキアは彼を慕っていて。
 自分の想いは口や態度に出さない限り知られることはないし、それを承知していながら実行しないのは自分で。
 分かっている。分かってはいるが…目の前で彼への贈り物をいっぱいに抱いて笑み、ましてや彼女が唯一彼だけに「殿」とつけない事実を見せ付けられると。
 さすがに、腹が立つ。
「…なぁ」
「はい?」
「俺もひとつもらっていいか?」
 日番谷の申し出に、ルキアは快く頷いた。
 回廊に近付き、背伸びし、花を掲げた瞬間。
 まるでそれは罠のように。
 日番谷の手が伸びた。
 白い花を通り過ぎ。
 ルキアの胸倉へ。
「……っ」
 拒絶する暇もなかった。
 その小さな体のどこから、と思うほどの力で引き寄せられ、顔が近付いたと思った次の瞬間には、唇が触れ合っていた。
 引き寄せられたときに花は手放され無残に舞い散り、唇が離れたときにはすべて落ちていた。
 瞬きもせず自分を見上げるルキアに、けれど日番谷は自分でも不思議なほど動揺を見せず。
「…サンキュ」
 言い置いて、その場を後にした。
 残ったのは散らかった花と、言葉もなくへたり込んだルキアと。
 ふたりの胸に咲いた、淡い花。

―――了



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強引な日番谷たいちょが書きたくて。…書きたくて;

後から調べたらやっぱりというか何というか、
ルキアの方が日番谷たいちょより11センチも大きくて、
……その…;(ふいっと視線を逸らしてみる)