花にくちづけ
暇やったから五番隊に顔出した。
したら隊長さんは居らんでキミひとり。
「あ、ごめんなさい、藍染隊長は今いなくて…」
「構へん構へん、藍染はんに会いに来たんちゃうから」
そしたらキミは瞬きをひとつして。
「また逃げ出してきたんですか? 吉良くんが可哀相ですよ」
淡く苦笑する。
イヅルに同情する割には手際よぅ茶ァ淹れて、ボクの前に出してくれはった。ご丁寧に葉桐屋の葛餅まで添えて。
「おおきに」
言うて受け取る際に、ちょこっとだけ手が触れた。
雛森ちゃんの手はちっさい。華奢なてのひらに、斬魄刀は似合わへん。
と。
慌てて雛森ちゃんが手を引く間際。
白い花のようなてのひらの中に、もひとつ花を見付けた。
「どないしたん、これ」
手首掴み直して問い質したんは小さな小さな赤い花。火傷や。
「あ…その、午前中にお湯をこぼしちゃって」
「あかんなぁ。ちゃんと冷やさへんかったんやろ」
「あの…市丸隊長」
「ん?」
「痛い…です」
掴んだ手ェに力が入ってしもうたらしい。「ああ、堪忍な」言うて、ボクは放してやった。
雛森ちゃんの手首に、花がもひとつ咲いた。ボクのてのひら大の、赤い花。
ボクが咲かせた花は、そのうち紫になって、やがて青ぅなってゆくんやろう。そのことがなんとなしに嬉しゅうて、も一度、今度はそっと、雛森ちゃんの手を取った。
優しいキミは、困った顔はしても振り払ったりはせぇへん。せやからボクは付け上がるん。
キミはボクんの。
思いつつ、てのひらに唇を寄せて、もひとつ花をつけてやる。
小さな手ェに、赤い花がぎょうさん咲いた。
―――了