(notitle)
彼女は強くて、だから安心して背中を任せてた。
そうして僕は彼女を失った。

失うのが怖くて、だからかな、
次に好きになったのは、目の届く場所に居てくれる女の子。

けど、なんでだろう。
守ろうとすればするほど、
構おうとすればするほど、
彼女は僕から離れてく。

「あなたの負担になりたくないの」
「あなたの隣で刃を握りたいの」
そう言って、強く、強くなろうとする。
そうして結局、今度は僕は自分の腕の中で、彼女を失った。


たくさん泣いて、
たくさん悲しんで、
涙も声も渇れてから気付く。
多分彼女たちは、弱くはなかった。
弱かったのは自分だ。
彼女の強さを過信した弱さ。
彼女の強さを不信した弱さ。

彼女たちを繋ぐ手を、僕は、
強く握り過ぎても、弱く握り過ぎてもいけなかったのだ。

2006.11.16 Thursday






偶像
キミの姿が少しでもはっきり見えんかったら、
この衝動も情動も、少しは収まらんやろうか。
そう思て、わざと度が合わへん眼鏡をかけた。

焦点の定まらない世界はふわふわと頼りない。
世界が一変。何処も彼処も知らない人だらけ。

せやけど。


「あれ、眼鏡をかけ始めたの?」


鉢合わせたキミに、ボクは口元を歪め、嗤う。
視界に映る彼女の姿は確かにあやふやなのに、
網膜に灼き着いた彼女の姿態が、それを補う。


 虚ろな世界に、確固たるキミが見える。
 情動が再燃。

「――いんや、」

 戯れや。
 そう言ってボクは、役立たずの眼鏡を踏み割った。

2006.08.24 Thursday






後ろ髪
「ボクが行かんで言うたら、行かんでくれる?」
「ええ、多分。
でも、あなたはそんなことを言わないでしょう?」

違うよ、言えんだけ。
キミが思うとるほど、ボクは強ぅない。
だから、ほら。振り返ってごらんよ。
今までキミに見せんかった顔を見せたげる。

そうしたら、もう少しだけ此処に留どまってくれんやろうか。



(さよならだけは、どうしても言えなかった)

2006.08.12 Saturday






(notitle)
「おやすみなさい」、
キミ言うて灯りが消される。
寝付きがえぇキミは、あっちゅう間に夢の世界。
ボクは、
「………」
暗い世界に取り残される。

目を閉じる。
意識は覚醒しとるまま。君の寝息が聞こえる。鼓動が聞こえる。風の音が聞こえる。静寂が聞こえる。暗い。
目を開ける。
寝息が、鼓動が、風が、静寂が聞こえる。部屋は暗い。動くものは何もない。

みぃんな、寝はる時分。眠たなる時分。
なのにボクは眠れんで、ひとり世界に取り残されとる。
代わりに明日は、夢の世界に居るボクを残し、キミは日々におとないを告げんのやろう。

キミとすら時間が噛み合わない。
ボクはさて、キミとは違う世界の住人やったか。

2006.08.04 Friday






Paradox
「来てたのかィ、負け犬」
「たかだかジャンケンに勝っただけの男にデカイ口叩かれなくないネ。
居ちゃ悪いあるか」
「あんたもなかなかデカイ口叩けてますぜ。

……まァ、」


「また来なせェ」

2006.06.14 Wednesday